今日はモダン・ダンス始まりの国、アメリカについてご紹介します。
空前の好景気を迎えるアメリカ
第一次世界大戦においてアメリカは戦勝国です。多くの兵隊をヨーロッパに派遣しましたが、国土が直接被害を受けることはありませんでした。
それどころか、戦争中はヨーロッパに大量に兵器を輸出することで巨利を蓄えました。
また、大戦後さまざまな国が財政難に陥ったことはすでに書きましたが、そういった国々にお金を貸していた国、世界最大の債権国はアメリカだったのです。これがのちの世界恐慌の原因にもなります。
戦後は自動車の大量生産方式などさまざまな技術革新を起こして、生産性が大幅に向上。喜劇王チャールズ・チャップリンは人間が機械に支配される工業化された社会を「モダン・タイムズ」という作品の中で風刺しています。
さらに、映画産業では1927年の映画「ジャズ・シンガー」で、映画にはじめて音声がつきます。それまでは映画に音声はついておらず、劇場で活動弁士やピアニストが生で演出するサイレント映画が主流だったのですが、この映画を機に音声つきのトーキー映画が一気に広がります。
アメリカは空前の好景気を迎えるわけですが、過剰な生産と投資により、株価や土地の価格が実態からどんどん離れて上昇、1929年、ついにバブルが弾けます。世界の債権国だったアメリカが一気に資金を引き上げたことにより、ニューヨークを中心にした金融危機が世界を巻き込み、世界恐慌が訪れます。
それまで景気が良かった分、景気の落ち込みも深刻です。日本も1989年にバブルが崩壊して以来、景気の落ち込みが今もなお続いていますから、よく分かりますよね。
当時の失業率は25%、4人にひとりが失業者となってしまいます。フランクリン・ルーズベルトが大統領に就任してニューディール政策で経済再建をはじめるのが1933年ですから、祖父がドイツに留学していた1932年までは大不況の真っ只中だったことになります。
イサドラ・ダンカンとマーサ・グラハム
イサドラ・ダンカンは、アメリカのモダン・ダンスの始祖として知られています。彼女は、古典的なバレエに飽き足らず、自然や感情に基づいて自由に踊るスタイルを確立しました。
「自然に帰れ」とは、彼女のモットーであり、彼女のダンスの哲学でもあります。彼女は、人間の身体や心は自然の一部であり、自然のリズムや法則に従って動くべきだと考えました。ダンカンはギリシャ時代の壺に描かれた絵や、パルテノン神殿に描かれた壁画からインスピレーションを受けており、バレエを基礎とした動きとは異なる表現を模索しました。
ヨーロッパで起きたノイエタンツはバレエの基礎訓練と並行する形で発展していったのに対して、モダン・ダンスの始祖の彼女の表現は、バレエと対立する形で始まったことは注目に値します。
イサドラ・ダンカンの活躍はアメリカにとどまりません。1905年にはドイツのベルリンに舞踊学校を開設し、1908年に閉校したあとも姉のエリザベス・ダンカンが学校を開き、ダルムシュタット、ミュンヘンと都市を移しながら現在も続いています。
マーサ・グラハム
マーサ・グラハムの説明をする前に、彼女の先生について紹介させてください。彼女の先生はルース・セント・デニスという人物で、東洋の考え方を身体表現に取り入れた人物です。バレエ畑の人ではありません。
1910年代、マーサ・グラハムはルース・サン・デニが踊るのを見てダンスに興味を持ち、22歳になって彼女と夫が主催するデニショーン・ダンサー養成所に入学しプロへの道を目指しました。
自分の感情や思想をダンスで表現することに情熱を持ち、彼女が生み出した「コントラクションとリリース」という技法は後世のモダンダンスに大きな影響を与えました。
ドイツのメリー・ウィグマンの先生もリトミックのダルクローズだったことを考えると、二人ともバレエとは異なる身体表現を自分の踊りの中に取り込んでいった共通点が見られます。
イサドラ・ダンカンは独自のスタイルを貫いたのに対し、マーサ・グラハムはドイツのノイエタンツやバレエ・リュスの舞台美術館・衣装を取り入れたりして、表現の幅を広げていった印象があります。
マーサ・グラハムは1991年に96歳で生涯を閉じるまで世界に影響を与え続け、日本にも直系のお弟子さんが何人かいらっしゃいます。
まとめ
じつは僕も、10年以上前になりますがイサドラ・ダンカンの3代目後継者である、メアリー佐野さんと一緒にお仕事をしたことがあります。ご自分で撮影された中国の美しい川の映像を舞台に投影して、裸足で踊られていたのが印象的です。
次回はいよいよ世界のダンス史がどう動いたかを、祖父の留学先のドイツを中心にご紹介します。
最後までお読みいただき、有難うございます!
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