今週の金曜日には、僕が映像制作&オペレーションで参加している舞踊作家協会30周年公演があります。もしかしたら読者のみなさんの中には、舞台で映像が使われているところを見たことがない人がいるかもしれません。
スポーツイベントや会社の株主総会、ライブイベントではバックスクリーンやステージ上で映像が流れているのを見たことがあるかもしれませんが、演劇やバレエで映像が使われることはジャンルにもよりますが、決して多くはないと思います。
僕自身、そういった現場で上映があるときは、演者にも裏方にも馴染みにくい、何とも言えないアウェー感を感じることがある。
とは言え、使い方によっては舞台空間をより魅力的に見せることができる舞台上の映像演出。いざ使ってみようと思っても、幾らかかるのか、何をどう注文するのか、分からないこともあると思います。
今日はそんな「今さら聞けない、舞台映像のイロハ」についてご紹介します。
舞台映像の効果
舞台映像とは何か、一言で言えば「具体的なイメージを伴う照明の一種」です。
スポットライトやバックライト、光と影が生み出す効果によってさまざまなシーンの情景を作るのが照明の役割です。映像もプロジェクターという機械から発せられる光を舞台空間に投射する照明の一種です。まわりの光が強かったり、プロジェクターが投影対象から遠くなれば、そのぶん光は弱くなります。
その光の中に、通常の照明よりもより具体的なイメージをのせることができるのが映像です。
例えば、以下のような使い方ができます。
・場面や空間の表現
中世の古い街並みから幻想的な夢の世界まで映し出します。限られた舞台空間に広がりや臨場感を持たせることができます。
・キャラクターの心情や内面の表現
言葉や動きだけでは表現しきれない感情や心理を視覚的に伝えることができます。それをあえて逆手に取って舞台上で起きていることと、正反対の心情を映像で表現することで、キャラクターの外面と内面のギャップを表現することも可能です。
・時間経過
朝から夜、季節や年月の変化を表現します。大掛かりなセットがなくとも、映像でタイムスリップや瞬間移動の表現をすることも可能です。
・インタラクティブな視覚表現
舞台上の演出と連動させて映像を変化させることができます。例えば、魔法使いがステッキを振ると映像が変わったり、ダンサーの動きに合わせて映像に線や円が描かれたりといった、動きと連動した演出です。
これらは、舞台映像の演出のほんの一例に過ぎません。舞台映像はアイデア次第で既成の舞台の概念を覆すような、さまざまな演出を行うことができます。
舞台映像制作のコスト
映像制作にかかる基本的なコストの構成は以下の通りです。
- 撮影費(必要であれば)
- 編集費
- 機材費
- オペレーション費
- その他運搬費用など
舞台で映像を上演しようと思ったら、当然何も無いところから作り出すことはできないので、上演する映像素材を用意しなくてはいけません。撮影する場合もあれば、CGを編集ソフトで作成する場合もあります。
映像制作について詳しくない方は舞台当日に費用がいくらかかるかを気にしがちですが、映像制作で一番時間とコストがかかるのはこの映像素材を用意する部分です。
舞台当日は、どのようなシステムを組むのかによりますが、必ず一定のコストがかかるのがプロジェクター代です。会議で使っているような小さなプロジェクターとは違い、舞台照明と一緒に使ってもハッキリと視認できるような光量の強いプロジェクターが必要です。
会場によってはプロジェクターが付帯している場所もありますが、付帯していない場合、あるいは付帯していても、十分な光量が確保できない場合はレンタルする必要があり、会場の規模によってはレンタル代が1日10万円を越すことも。加えて、演出の希望に沿った画面の大きさで投影するためのレンズや、プロジェクターを設置する台や吊り金具、そして上映機材を操作するスタッフも必要になってきます。
ちなみに僕は中規模の会場で使用できるプロジェクターを持っている。
舞台映像を活用するポイント
今から20年近く前、父の舞台でヘミングウェイの「老人と海」をベースにしたバレエ作品に関わることがありました。その中で、巨大なマグロと格闘する老人を舞台上でダンサーが演じ、映像は海の中に見立てて3面スクリーンを横断するマグロのダンサーを映し出し、映像からマグロが消えると舞台上(つまり海上)にマグロが現れる、と言ったシーンを作りました。
これは、父がこの企画の初期段階で僕に相談をしてくれたから実現できたシーンです。
舞台やバレエを本職とされている演出家や振付家の中には、ビデオアートや映像を使ったエンターテイメント作品をあまり知らない方もいらっしゃいます。そう言った方は、そもそも演出の手段として「舞台映像」が出てきません。
ですから、発注する前で構わないので、演出の中に映像を使うと何ができるのか、初期の段階でご相談をいただきたいと思っています。結果的に映像を使わない方が良い、という結論になったとしても、それはそれで一つの前進です。まずは、どんなことが出来るのかを知っていただければ、今後の役に立つかもしれません。
まとめ
発注する際は、まずは映像を使って実現したい事を伝え、”どうやって(How)”の部分はプロに考えてもらった方が良いと思います。
また、注文する業者によって、プロジェクターなどの機材を持っていたりいなかったり、逆に機材はあるけど映像制作は外注していたり、さまざまな場合がありますので、相見積を取る事をお勧めします。
今日書いた内容を理解してもらえれば、見積のどこの部分にコストがかかっているのか、業者に問い合わせる事ができると思います。
僕が今回の公演で全ての映像素材を AI で制作しているのは、それが振付家のイメージを最も表現できるものだと思ったからです。しかし、それと同時に「コストを抑えたい」という思いもあることは否定しません。限られた予算をここで抑えられれば、別の部分に回すことができるからです。
今日ご紹介した内容の他に、舞台映像について「ここが知りたい!」などありましたら、ぜひコメントをください。
■公演情報
舞踊作家協会連続公演第237回 30周年記念公演
- 開催日:2024年11月1日(金)開演時間19時00分(開場18時30分)
- 場所:会場ティアラこうとう 小ホール
- 料金(全席自由):一般 3,000円 友の会 2,700円 江東区民 2,800円
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