最近、海外から日本の注目ぶりがすごくないですか?
ちょっと前に国のお偉いさんが言い始めた自称「クール・ジャパン」ではなくて、海外の人たちから日本が注目される機会が多くなってきたように思います。
日本にいるからそういうニュースばかりが入ってきていると錯覚しているのかな?と思いがちですが、スポーツでは昨年のWBC優勝にはじまり、サッカーも破竹の勢いでドイツなどの強豪国を連覇。音楽ではYOASOBIがグローバルビルボードの1位を獲得、ADOの11か国全世界ツアーが決定。米国では「ゴジラ-1.0」「君たちはどう生きるか」がマーベルやディズニーの大作を差し置いて大ヒットしています。
海外から日本に訪れる訪日外国人も2500万人を超えて、コロナ禍前の8割を回復。円安も手伝って国内での消費額はコロナ禍前を超えて5兆円に達するなど、数値としても日本への注目度が表れています。
一方で日本のバレエはどうでしょう。海外で活躍する日本人のバレエダンサーはたくさんいらっしゃいますが、「メイド・イン・ジャパン」のバレエ作品が海外で高い評価を得たと言うニュースは耳にしません。そもそも海外の文化であるバレエに「メイド・イン・ジャパン」は存在するのか。
他ジャンルにおける日本製と海外製の違いを見比べながら、メイド・イン・ジャパンのバレエとは何かを考えてみたいと思います。今日は僕の得意分野である映画から、日本とアメリカのプロダクション、制作現場の違いについて見ていきます。
クオリティーの日本、ブランドのアメリカ
昨年12月1日にアメリカで公開された「ゴジラ -1.0」は、異例のロングランヒットを続けて、海外で上映される実写映画としては歴代最高の興行収入で100億円を突破しました。
作品自体の評価はすでに色んな人がしているのでさておき、僕が注目したいのは「ゴジラ -1.0」がハリウッドの大作映画よりも極端に低い予算で製作されていることです。ゴジラシリーズはアメリカでも人気があり、ハリウッド版のゴジラ作品も作られていますが、その製作費は1.5億ドル〜1.7億ドル。日本円換算だと200億円を超えるのに対して、「ゴジラ -1.0」の制作費はその10分の1にも満たない15億円。
この事実が、大きな予算をかけて製作されるマーベルシリーズやディズニー映画などへの反発もあって、アメリカでも話題になっています。
アメリカ側から見れば「ハリウッドが数百億円かけて作る映画を、日本は10分の1の予算で作った。ハリウッドも無駄なお金をかけずに見習うべきだ」みたいな言説ですが、もちろんこの違いについて日本側から学ぶところもあります。
なぜならこれは「日本の職人が小さな町工場で作ったバッグは、ルイ・ヴィトンが作ったバッグの10分の1の値段で同じクオリティーだ」と言っているのと同じだからです。
高いブランド力で労働者が保護されたアメリカ
ハリウッドの映画産業はユニオン(労働組合)の力が非常に大きいです。俳優はSUG-AFTRA、技術スタッフはIATESEと言ったように、それぞれの労働組合が労働に対するギャラの支払いや労働時間をルール付けて厳重に管理しています。
たとえば俳優のミスでNGテイクが続いても、約束の時間を超過して撮影をしてしまえばチャージが発生しますし、ちょっと照明の位置を変えて撮影すればもっと良い絵が撮れると思っても、セッティングチェンジしている間に労働時間を超過してしまうとお金がかかるから諦める。みたいな状況が平気で発生する世界です。
そうなると日本なら3日で終えることができる撮影が、ハリウッドなら6日かかるということがおきます。そしてその間にもスタジオ代やスタッフに支払う人件費は発生しつづけるワケです。
労働に対して正しく対価が支払われるよう、徹底的に管理されているのですから、これは働く側の視点に立つと非常に恵まれた状況です。
こう言った恵まれた労働環境が実現できる背景には、ハリウッドがそれだけのブランド力を手に入れているということが言えます。つまり、同じ品質のバッグでも、ルイ・ヴィトンのブランドで売られたバッグには10倍の価値が付く。だからその利益を労働者にも還元できる、という状況です。
労働組合に入っていないフリーの俳優や技術者は待遇に雲泥の差があるので、フリーの役者や技術スタッフはみんな労働組合に入ろうと躍起になる。たとえ演技力や技術力にそれほど差がなくても、ブランドの有無で環境は全く異なるんだ。
スタジオジブリの特異性
こう言ったブランド力を手にしているのは、ハリウッドだけではありません。
「君たちはどう生きるか」で過去最高収益を上げている、スタジオジブリも高いブランド力を有しています。
「君たちはどう生きるか」は宮崎駿監督による10年ぶりの作品で、制作には7年を要しました。これだけ長い時間をかけて日本最高峰のスタッフを集め制作をし、かつ大ヒットするのは、ここ20年で日本のアニメが、なかでもスタジオジブリの作品が世界的なブランド力を身につけたからに他なりません。
プロデューサーの鈴木敏夫さんはこの映画の制作にあたって出資者を募る製作委員会方式をやめて、上映前の大広告を打つのもやめました。それでも劇場に人が集まるのは「この作品は劇場で観るに値する作品だ」という信頼、つまりブランドを世界的に獲得しているからです。
日本ではジブリの新作が出れば大人も子供も観に行くという状況が20年以上前からありましたが、
2003年に「千と千尋の神隠し」が長編アニメ部門でアカデミー賞を受賞したとき、アメリカではそこまでアニメーションに対する認知もなくて、それから20年かけて日本と同じ状況が今のアメリカでも醸成されてきたのです。
くれぐれも誤解して欲しくないのは、ブランド力があれば低い品質のものでも売れる、という話ではないこと。世界にも通用する高い品質があることが大前提だよ。
そしてブランドの強力な利点の一つは、観る側の姿勢の変化です。「君たちはどう生きるか」は、非常にハイコンテクストで奥行きのある作品です。観る側が「消費する」という受身の姿勢ではただ難解なだけでその奥行きが感じられませんが、ブランドのある作品は観る側が作品に歩み寄ってくれます。
ドストエフスキー作品に分かりやすさを求めて読む人はいないし、バレエはフランスやロシアがブランドで、日本がそこにあわせに行っている感じを受ける。
まとめ
日本では自腹が基本のバレエシューズやレオタードが海外のバレエ団から支給されるのは、バレエがそれだけのブランド力をその国で獲得しているからです。
ブランド力を日本のバレエ界が獲得するには何が必要でしょう?国内バレエ教室の数は習い事トップランキングに入るほどありますし、世界で活躍するダンサーも輩出されています。
僕も答えを持っているわけではありません。でも、異分野において世界で活躍する日本の作品や産業を見てみれば、なにかのヒントが見つかるかもしれません。
「世界的な日本ブームについて考える」は今回を皮切りに、定期的に発信していこうと思います。
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