現代につながるノイエタンツ -4-

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今日は戦後のノイエタンツの足取りを映像を交えて紹介します。お時間のない方はテキストだけ読んで、映像は時間のある時に見返してください。

ナチスによる舞踊統制

ナチスはノイエタンツを含む前衛的な芸術活動を「退廃芸術」と呼んで統制し、ドイツで生まれた表現主義は急激に勢いを失ってしまいます。

一方、アメリカに渡ったノイエタンツも敵国の芸術ということで、多くのドイツ系の舞踊学校は閉鎖を余儀なくされ、盛んだったダンス留学も途絶えてしまいます。

「黄金の20年代」で栄華を誇ったノイエタンツはナチスの台頭により、消えてしまったのでしょうか?

第2次世界大戦後の世界

そうではありません。世界に散らばったノイエタンツの遺伝子は各国で独自の発展を遂げます。

日本では終戦後の1948年、バレエ・現代舞踊・民族舞踊などの舞踊家が集まり「日本芸術舞踊家協会」(現在の現代舞踊協会の前身)を設立。60年代に入ると学生たちによる政治運動が過激化する中、大野一雄や土方巽による暗黒舞踏が状況劇場に代表されるアングラブームとともに注目を集めます。

大野一雄「美と力」(ラ・アルヘンチーナ頌)

終戦から50年代にかけてのアメリカでは先に紹介したハンヤ・ホルムがノイエタンツを継承しながら独自のダンスメソッドを開発してハリウッドやブロードウェイで活躍し、空前のミュージカルブームが湧き起こります。

アメリカ発祥のモダンダンスも発展を続け、60年代はマーティン・ルーサー・キングによる公民権運動を背景に、黒人の民族的歴史や信仰を織り込んだ作品をアルビン・エイリーが発表。

アルビン・エイリー「リベレーションズ」

一方、ベトナム戦争を背景に、若者がこれまでの価値観や慣習を否定するヒッピームーブメントがおこり、すでにスタイルが確立されてきたモダンダンスからも脱却するような「ポスト・モダンダンス」の動きがおこります。

Pina_Bausch.jpg: Leafarderivative work: トトト (talk) derived & uploaded on 2009-07-01 11:23 (UTC). – Pina_Bausch.jpg, CC 表示-継承 3.0, による

クルト・ヨースに師事したピナ・ヴァウシュ*はソリストとしてアメリカで活躍。1962年にドイツに帰国し、ポスト・モダンダンスの影響を受けつつ、クルト・ヨースが開発した「タンツテアター」を独自に発展させた振付作品を発表して世界的に注目を浴びます。

*ピナ・バウシュの映像資料についてはピナバウシュ財団がアーカイブ映像を公開しています。

また、踊りとは関係がありませんが、フランスでは50年代後半から60年代にかけて、フランソワ・トリュフォーやジャン・リュック・ゴダールなどの若手映像作家が、古い道徳観や硬直化した撮影技法に反発し、実験的な手法や個性的な表現を試みた「ヌーベルバーグ(新しい波)」という映画作りの動きが起きます。

60年代を中心とした若者が大人たちに反発する世界の動きって、なんだか第一次世界大戦後の世界の状況に似ていませんか?

いつの時代も戦場に駆り出されるのは若者で、その若者たちを送り出すのが大人たちです。

ヌーベルバーグの代表作「大人は判ってくれない」監督:フランソワ・トリュフォー

フランスでヌーベル・ダンスの登場

70年代後半、フランス政府が国策として地方創生を行い、芸術分野にも予算が投じられます。パリ・オペラ座に現代舞踊部門が創設され、アメリカからキャロリン・カールソン*が指導者として招聘されます。

これは私見ですが、政府のお墨付きを得たパリ・オペラ座の現代舞踊部門に「われこそは新しい時代のダンスの旗手だ」という人たちが集まったのだと思います。

こうして、ドイツのダンステアター、アメリカのポスト・モダンダンス、日本の舞踏などの影響を受けながら、反バレエ・脱バレエ的な表現を目指す「ヌーベル・ダンス(新舞踊)」が誕生します。

このヌーベル・ダンスこそ、のちに「コンテンポラリーダンス」と名前を変える踊りのムーブメントです。

キャロリン・カールソンと
ラグナート・マネのパフォーマンス
By Bruno EQUENTEL – Own work, CC BY-SA 3.0,

*キャロリン・カールソンは、フィンランド系アメリカ人のダンサーで振付家。コンテンポラリーダンスの母と呼ばれる

90年代に入り、踊りはさらに多様化し、映像、音響、照明、美術などの演出も含めて新しい表現方法の追求にこだわる振付家が増え、それらの多様な表現活動を包括して「コンテンポラリーダンス」と呼ぶようになりました。

コンテンポラリーダンスってモダンダンスよりも全然新しい概念なんだね。

まとめ

最初に立てたこの問いへの答えです。

モダンダンス」と「コンテンポラリーダンス」って何が違うの?

なり立ちをたどってみるとモダンダンスは20世紀のはじめからドイツとアメリカにあって、コンテンポラリーダンスはもっと最近、90年代に広まった概念だということがわかりました。

バレエ教室で「モダンダンス」という言葉を用いているところは、マリー・ウィグマンやマーサ・グラハムといった、その源流をたどることができる流派のようです。一方で「コンテンポラリーダンス」というのはそれらモダンダンスの流れも含めた、より広義な意味で使われるクラシックバレエ的ではない踊りを指すようです。

モダンダンスは博多に本店のある一風堂のラーメンで、

コンテンポラリーダンスはとんこつラーメンみたいな。

ただ、ここで気をつけたいのは現代のコンテンポラリーダンスは反バレエですらなくて、コンテを踊るための身体操作を身につけるために、クラシックバレエを学ぶことを基本としている教室が多いようです。

コンテンポラリーダンスは時代時代でその意味が変わる、真に現代的な踊りということですね。

最後はいろんな言葉が出てきて駆け足になりましたが、いかがだったでしょうか?これで「現代につながるノイエタンツ」編は終了です。

来週から仕事部屋に戻ります!

 


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