前回は僕が考えるバレエ教室の課題と対策についてご紹介しました。
いくら理想を語ったところで、実践が伴わなければ、これらの取り組みは理想のまま机上の空論となってしまいます。
今日は僕が感じるバレエ教室の課題と、スタジオアルマがどう接続しているのかについて説明します。
バレエ教室でやれることの可能性と限界を知りたい
前回、さまざまな課題に対してやりたいことを書いてきましたが、これらすべてをバレエ教室で解決できるかどうかは未知数だし、「バレエ」で、そして「教室」でどこまでやれるのかを知る必要があります。
両親のバレエ教室は1935年に祖父が立ち上げてから90年近くが経過しており、クラス編成もしっかり分化して生徒もたくさんいます。僕の世代では、ゼロからシステムを立ち上げるのではなく、完成されたシステムをどう引き継いでいくかがポイントになります。
一方でスタジオアルマは立ち上げてから日が浅く、小学生から50代の女性まで、さらに経験者から未経験者までが一つの教室でレッスンをする、両親のバレエ教室とは全く異なる状況です。
両親のバレエ教室に限らず、バレエ教室であればどんなに小さな教室でも年齢ごとにクラスを分けてレッスンを実施している。
バレエ教室にない状況だからこそ、僕はスタジオアルマに集まる人たちがどんなことに惹かれているのかに興味があります。
スタジオアルマ主宰の小泉憲央は日本とアメリカの伝統的なモダン・バレエを学び、かつては執行バレエスクールでクラシックバレエを学んでいた人物です。小泉憲央のレッスンはクラシックバレエの基礎的な動きをバーレッスンで行い、その後にモダンバレエの要素を取り入れた舞踊劇独特の動きを練習します。
舞踊劇は動きだけを見ればバレエとの類似点もありますが、例えば「象の動きをした後に虎に変化する」など、より具体的で表現力が問われる動きを稽古しています。
ここで問われるのは手先指先の細部の動きよりも、全体としてその動物の特徴をいかに捉えて表現できているかなんだ。だから一人一人の虎が違っていても良い。
僕がダンサーだったら体験レッスンを受けてその違いを体感することもできるのでしょうが、僕の場合は取材者として、劇団員一人一人の思いを聞き出すほうがアプローチしやすいです。それもただ外野として参加するのではなく、彼らと同じ窯の飯を食べる仲間として参加するために、あえてクラウドファンディングで経済的なリスクと責任を背負うことにしました。そうすることで、スタジオアルマにあってバレエ教室にたりないもの、逆にバレエ教室にあって彼らにたりないものを見ることができるのではないかと考えました。
取材を通して、僕が興味を持ったことは「表現によって人の心が動く瞬間は何か」です。
圧倒的に熟達した技術を見た時、人は感動します。一方、生まれたばかりの赤ん坊を抱きしめた瞬間にも人は感動します。
クラシックバレエの中で表現を追求しようと思ったら、技術の研鑽と肉体改造を置いて考えることはできません。フィギュアスケートで回転ができないフィギュアスケーターがいるかどうかイメージしてもらうと分かりやすいのではないでしょうか?
一方で「踊り」は、技術的な研鑽をした人だけのものでしょうか?身体の不自由な方や障害を抱えた方は踊れないのでしょうか?「心を動かす」という側面で見れば、プロのダンサーによる踊りよりも、我が子の成長が感じられる発表会の方がよほど心が動かされるかもしれません。
何が言いたいかというと、技術的研鑽の先にあるバレエと、人によって個別最適化されたエクササイズとしてのバレエは「感動」の種類は違えど、「表現」としてはどちらも存在しうる、ということです。
また、「表現を学ぶのが先か?」「技術を学ぶのが先か?」という問いにも興味深い研究があります。
たとえば、厳しいバレエのレッスンを受けた生徒が、本番で極度に緊張し、実力を十分に発揮することができないといった事柄は単に生徒の性格だけが問題ではありません。技術に偏重したレッスン方法にも原因があります。
ポール・タフ著「成功する子 失敗する子―何が「その後の人生」を決めるのか」は、アメリカの貧困エリアにある学校の生徒たちを対象に、貧困が幼児期の子供に与える影響について紹介している本です。その中では非認知的スキルを幼児期にいかに育てるかがその後の子供の発達に大きく関わっていることが述べられています。非認知的スキルとは「粘り強さや自制心、好奇心、やり抜く力などのような気質」を指します。
そして非認知スキルの発達には親との良好な信頼関係と「失敗しても良い」と思える楽観主義が重要な要素になっています。これは先日音声配信した「遊びからはじまる熟達論」にも通じる話です。
バレエ教室においても、初期段階においては型を気にせず全力で踊るようなレッスンがあっても良いのかもしれない。
まとめ
スタジオアルマとのコラボレーションは決してお人好しだからでも同級生だからでもありません。
執行バレエスクールは両親が経営している現在、僕が関われることは限定的です。一方で、スタジオアルマにはプロデューサーとして関われる余地が大いにあります。彼らとの協働を通じて、今のバレエ教室に足りないものを見つめなおし、21世紀型のバレエ教室を創造していくことが目的です。
それがモダン・バレエを学んだ祖父と、それをクラシックバレエ教室として引き継いだ父を持つ、僕の使命だと考えています。
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