馬のしなやかで力強い脚運びをバレエに取り入れたり、獣の強さをカンフーに取り入れたり、人は動物の特徴を捉えて、その動きを体術に取り込んできました。
ところで、「土偶」ってどんなイメージですか?今日は「土偶」から見る、日本人のしなやかさについてご紹介します。
土偶って、踊りと関係なくない?
直接的には関係ありません。しかし、西洋では自然は人間と対立する概念で、人と自然の間には明確な線引きがあるのに対して、日本の自然観は自然と人間の間に明確な区別をしていません。むしろ「自然な」ことは良いことだというイメージです。
ここに、日本の踊り、西洋の踊りを知るヒントが隠されているかもしれません。
土偶から見る縄文時代の自然観
僕が学生の頃は、縄文人は動物を狩って暮らしていて、弥生時代から農耕文化が栄えたと習いました。
しかし、最近の研究だと、縄文時代から原始的な農耕文化は始まっていたとされます。縄文時代の農耕文化は、いわゆる稲作ではなく、栗やトチの実がなる木を栽培する果樹栽培やジャガイモなどの根菜の栽培をしていました。さらに、海辺の集落では釣り針や貝が見つかっており、僕が想像していたよりも縄文人はずいぶんとおいしい、栄養バランスのとれたものを食べていたことが分かっています。
この時代における人と自然との関係を垣間見ることができるのが「土偶」です。
たしか学校では土偶は女性をモチーフにしていて、子供を産む母を神格化したものだと教わりましたが、当時から「これ、女性か?」と言った疑問を持っていたのを覚えています。
そしてこの土偶の謎を紐解いたのが人類学者の竹倉 史人さんによる著書「土偶を読む」です。
この本によると、全国で出土されるさまざまな土偶を調べると、その土地々々でとれる木の実や、貝の形に土偶は非常に似ていることが分かり、また、土偶の出土数も果樹栽培が盛んになった縄文時代中期から非常に増えていることがわかりました。
権利の関係でここでこの本の画像を掲載することはできませんが、いちど竹倉さんのWebサイトに行ってみてください。
土偶は縄文人が作った、木の実や貝をモチーフにした「ゆるキャラ」だったことが分かる。
日本人は昔から「キャラ」を作るのが得意。
縄文時代の人々にとって、毎年何もしなくても貴重な栄養源である木の実を実らせ、自分たちの命をつないでくれる樹木は、とても神秘的な存在であり、かつ身近な存在であったようです。
朝鮮半島から伝来した稲作文化
なんとなくのイメージで、狩猟採取社会の縄文時代はワイルドな時代で、農耕文化が発展した弥生時代は平和な時代という印象がありませんか?
しかし、実際は弥生時代に朝鮮半島からもたらされた稲作文化を見ていくと、農具と一緒に人の殺傷を目的とした矢尻や剣なども輸入されてきています。
水田を耕すということは、自然を改変して、コントロールする営みに他なりません。また、田んぼを作るには田んぼの周りの堀を高くして「ここからここまでがウチの田んぼだ」と、土地の内側と外側に線を引いて所有するという概念が生まれます。
そして一定の面積で耕された作物は収穫量の予測が可能になり、その土地に定住して作業を分担し、集落を発展させることが可能になりました。また、時には別の集落を襲って、その土地で予測可能な収穫(=利益)を収奪するという行為もはじまります。
農耕という自然をコントロールする営みと、戦争という周りの人間をコントロールしようとする営みはパッケージで輸入されたようです。
縄文時代も喧嘩で殺されたと思われる骨とかは出土されているけど、組織的な戦争が行われるようになったのは弥生時代に入ってから。作物の収穫量が予想できるから「あの土地を奪おう」となる。
まとめ
ここで分かるのは、弥生時代において農耕文化と戦争はパッケージで朝鮮半島から輸入され、弥生時代が続いた1000年間に縄文文化は農耕文化に上書きされていったこと。そしてその前にはおよそ9000年続く、自然と人間の区別が非常に曖昧な縄文時代があったことです。
奈良時代の「古事記」を読んでも、明治時代の文明開花にしても、第二次大戦後の復興を見ても、日本は海外からの文化を取り入れて、自己流に改変して今日まで発展してきました。
なんでもかんでも取り入れてしまう、ある種の節操のなさと、豊かな自然に「キャラ」を見出して土偶を作るような独自のセンス。厳しい自然環境の中、それを克服する対象として発展してきた西洋との違いがここにあるような気がします。
さて、踊りに関しても、あまり「日本独自の」とか「本場ロシアの」とかにあまりこだわらず、気がついたら自己流になっているダンスカルチャーをしなやかに作り出していけるか、今後が楽しみです。
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