昨日の音声配信で、明治〜大正期に西洋から日本へ文化が流入する際のタイムラグで、西洋の文化がねじれて輸入されることがあるという話をしました。
その放送に対して「日本のダンス教育にモダンダンスが採用された記憶がある」とKayano Blogさんからコメントをいただき、気になったので少し調べてみました。
軽く調べただけなので間違いがあるかもしれませんが、「日本におけるダンス」とは何かを、「教育」という観点で調べてみたらおもしろそうだったので、今日はその内容をご紹介します。
2012年に中学で必修化された「ダンス」
2008年に中学校の学習指導要綱が改正されて2012年に「ダンス」が中学生の必修科目になりました。
「ダンス」と一言で言っても、ヒップホップ、ジャズダンス、フォークダンス、日本舞踊、クラシックバレエなど色々とありますよね。
文科省が定義する「ダンス」は以下の3つに分けられ、生徒はこの中からひとつを選択することになります。
- 創作ダンス
- フォークダンス
- 現代的なリズムのダンス
創作ダンス
こちらの歴史はかなり古くて戦後1947年からアメリカ主導の教育改革で、決まった振付やステップがなく、生徒がそれぞれのテーマに沿って自由に身体を使って表現する「創作ダンス」が採用されました。
指導要綱を見てみると、例えば以下のようなテーマがあります。
- 身近な生活や日常動作(スポーツいろいろ,働く人々 など)
- 一番表したい場面や動きを、スローモーションの動きで誇張したり,何回も繰り返したりして表現すること。
- 群(集団)の動き(集まる-とび散る,磁石,エネルギー,対決など)
- 仲間とかかわり合いながら密集や分散を繰り返し,ダイナミックに空間が変化する動きで表現すること。
なんだかコンテンポラリーダンス(戦後期はモダンダンス)のレッスン内容みたい。
おそらくこれがKayano Blogさんが「モダンダンスが採用された」とコメントされた点だと思います。これはクラシックバレエとモダンダンスが日本で流行るタイミングによるねじれというより、生徒が型にはまらず、自由な表現を目指すという目的にはクラシックバレエよりモダンダンスの方が適っていた、と見る方が良さそうです。
フォークダンス
フォークダンスと聞くと、男女が輪になって順番に踊りながら交代していく踊りをイメージする人が多いと思いますが、ここでのフォークダンスはその国の地域に根付いた伝統的な踊りのことを指します。
ですから、日本の盆踊りやソーラン節も立派なフォークダンスのひとつになります。ではなぜ「マイム・マイム」などが僕たちのイメージする「フォークダンス」かというと、指導要領には生徒が国ごとに個性の違う踊りを体験し、海外の文化や歴史に興味を持つことが定められているので、教師が一番経験したことがあり、教えることができる踊りが「マイム・マイム」だからです。
現代的なリズムのダンス
「現代的なリズムのダンス」を英訳すると”Modern rhythmic dance”あるいは”Contemporary rhythmic dance”となりますが、実際に教えるのはモダンダンスではなく、ストリートダンスになります。
表現力やコミュニケーション能力の向上を目指しており、決してかっこよく踊ることが目的ではないのですが、生徒たちが好きなアイドルやYouTube、Tiktokなどで一番目にするのがストリートダンスなので、履修科目の中では一番人気のある科目になります。
ちなみに、それまで女生徒のみが履修する科目だったダンスを、2008年の学習指導要綱を変更して男女ともに必修科目とした背景には、男女共同参画を掲げていた政府の意図があるようです。
以前、音声配信で明治政府のお達しで西洋の音楽をピアノの弾き方も知らない教師が教えることになった経緯を話しましたが、似たような現象がダンスで中学校教師を襲うことになります。特に40代以上の男性教諭にとって、ダンスは非常に指導しにくい*科目だったようです。
特別非常勤講師としてプロのストリートダンサーを講師として呼ぶ学校もあったけど、全部がそういうわけにはいかなくて、学校の先生が教えないといけないケースもあった。フォークダンスの逆で、40代以上のほとんどの男性教諭はこれまでリズムに乗せて踊るという経験をしてきていなかった。明治時代と違ってダンススクールに通っている生徒の方がダンスが上手な状況が発生した。
まとめ
創作ダンスの優秀賞を獲った映像を見てみましたが、内容はヒップホップの振りに限りなく近いものでした。先生や生徒がコンテンポラリーダンスやモダンダンスを見たことがないので、「自由に振り付けて踊りなさい」と言われて自分たちが知っている引き出しの中から踊ると、どうしてもヒップホップに近づいてしまうのかなと思います。
ですから、創作ダンスについても教員による指導には限界を感じます。
ちなみに、僕の知り合いのプロのストリートダンサーはダンスの必修化には複雑な感情を抱いたようです。ストリートダンスの地位が向上することは喜ばしいのですが、もともとストリートダンスは1960年代アメリカのハーレムやサウスブロンクスなど黒人が多く住むエリアで、学校からドロップアウトしたような若者の間から生まれた踊りですから。
「自由に踊る」って意外と難しいですね。
最後までお読みいただき、有難うございます!
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