幕開けの足跡 -1987-

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本日が2回目となる、執行バレエスクールの発表会プログラムを紹介する『幕開けの足跡』シリーズ。

手元にあるプログラムの最古の年代である1986年からはじめたのですが、初回を読んだ母から「もっと古いプログラムがある」と連絡を受けまして、さらにあと15年ほど時代を遡れそうです。

まだ古い時代のプログラムが僕の手元にはないので、今日は前回ご紹介した1986年から1年後の1987年のプログラムをご紹介します。

1987年の発表会は7月26日、場所は今はなき東京厚生年金会館(2019年にヨドバシカメラ本社が移転)で執り行われました。

1987年のおもな出来事

まずは1987年がどんな時代だったかを知るために、この年に起きたおもな出来事を振り返ってみます。

1987年はブラックマンデーと言われる世界的な株式市場の大暴落が起き、アメリカやヨーロッパの市場が揺らぐ一方、バブル経済真っ只中の日本は比較的安定していたので、大量のマネーが日本に流入し、バブル経済がさらに加熱していた時代。

1987年7月26日(日)東京厚生年金会館

以下、1987年の発表会プログラムの挨拶文を掲載します。

「執行バレエスクールの伝統」

今年から、発表会の挨拶文を私に書けと父から言われました。まだまだ元気な父ですが、徐徐にバレエスクールのバトンを私にタッチしたい気持なのかなと思いました。父から受け継ぎ、今も私の身体に流れている執行バレエスクールの伝統というものは、クラシックバレエを基礎に、その上に、オリジナリティーに表れたバレエ作品を創り上げて行くという姿勢であります。この事は、これからの日本のバレエ界全体の課題でもあります。多くのダンサー達は、外国の伝統の中から生まれた「白鳥の湖」や「眠れる森の美女」に自分を同化させるだけで、満足しており、観客が同じお金を出すなら、日本のバレエ団より外国から来た本場のバレエを見に行きたがる現状を、くやしさもなく、見過ごしています。これからの私達世代の務めは、現代日本人の感性に則り、同時に、世界にも通用し得るダンサーや、バレエ作品を創り上げる事なのです。そして、それが私が父から受け継いだバトンの中身でもあるのです。

ー執行伸宜

この年から、祖父執行正俊に代わり、父執行伸宜が挨拶文を執筆しています。

この年の挨拶文には、バトンを受け継ぐものとしての父の意気込みが書かれています。ここから2年後の1989年12月に祖父は他界します。祖父が他界した後の1990年の発表会挨拶文は、このシリーズのパイロット版とも言える過去記事「同い年の父が思ったこと」に掲載していますが、祖父から父、父から僕とバトンを受け継ぐ身としては、1987年の挨拶文も同じくらい重要な意味を持っています。

この挨拶文の中には、西欧文化の請け売りで満足しているバレエ界への問題意識と、日本人の感性にあわせたオリジナル作品を創り出すことへの使命感が綴られています。

このような問題は、現在もなお続いているように感じます。一方、現在の父はこの時の思いからさらに変化しています。

父曰く「コンテンポラリー」や「モダン」といった現在を表す言葉を持つ踊りは、本来はジャンルや特定の「型」を示すものではなく、今を生きる個々人の身体に宿るものであると。クラシックの基礎を身につけたあとの身体表現は一人一人違うべきだし、「日本人だからこう」とか「ロシア人だからこう」と一括りにできものではない。

つまり、最初から「日本人の踊りはこうあるべき」といった型に踊りをはめるのではなく、踊りは一人一人違うのだから、日本人が踊る、あるいは振り付けた踊りにはその人の育った出自や環境が自然に「含まれる」といった考え方かと思います。

そう考えると、過去の振付家の作品をそっくりそのまま踊ることよりも、いつ、どのような環境で踊るのかや、振付家や踊り手が作品にどのような解釈を加えるかが重要なことのように思えます。

1987年のプログラム

そこで、1987年の発表会で上演されたプログラムから興味深い作品を二つ紹介します。

一つ目は執行正俊の作・演出のオリジナル作品を祖母、花月達子が振付た《子供の為のバレエ組曲「世界の子供はお友達(続篇)」》です。ゼッキーノ・ドーロというイタリアのボローニャ市で毎年開催される子供の歌唱コンクールを題材にしたバレエの組曲です。

1986年でご紹介した《ステージドア》と同様、子供たちが踊るからこそ活きる作品を発表会で上演するのは、執行バレエスクールの特徴のひとつと言えるかもしれません。

タイトルに「続篇」がつくのが気になったので確認したところ、以前にもこの作品を発表会で上演したことがあって、その時よりも曲と踊りが追加されているらしい。

もう一つの作品はデイヴィッド・リシーン原振付の《「卒業記念舞踏会」1景》です。

デイヴィッド・リシーンはバレエ・リュスを後継したバレエ・リュス・モンテカルロなどで活躍した振付家で、《卒業記念舞踏会(Graduation Ball)》はヨハン・シュトラウス2世*作曲、アンタル・ドラーティ**編曲の音楽にリシーンが振付けたものです。

物語はウィーンの女子名門学校のはなやかな卒業記念舞踏会を描いたものですが、大枠のプロットはそのままに、父、執行伸宜が発表会向けの作品として大幅に振り付け直しました。

一般の公演では振付の改変は権利の関係もあってなかなか難しいのですが、観客からチケット代を集めない発表会だからこそ見られる作品と言えるかもしれません。

デイヴィッド・リシーン(1910-1972)
[ca1941]State Library Victoria

*『美しく青きドナウ』など19世紀オーストリアにおけるウィンナ・ワルツの代表的作曲家。

**20世紀を代表するハンガリー出身の指揮者・作曲家。1906年生まれ。

まとめ

1987年の発表会プログラムは、クラシックバレエの基礎を大切にしながらも、時代や環境に合わせた新しい表現を模索する演目になっていて、それは現在のバレエ教室にも受け継がれています。

さて、『幕開けの足跡』シリーズですが、来週7月30日に2024年度執行バレエスクール発表会があり、その後も映像制作の仕事などが続くため、一旦夏休みをいただきます。

7月29日から8月13日まで夏季休暇とさせていただきます。

休暇中は、母が保存してくれた1970年代の古いプログラムを読み込みたいと思います。もし無事に入手できれば、次回は1971年のプログラムをご紹介できるかもしれません。入手できなかった場合は、1988年のプログラムをお届けする予定です。

それでは、皆さんも素敵な夏をお過ごしください!

 


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