みなさんは2017年に起きた、JASRACとYAMAHA音楽教室との間で争われた著作権料訴訟問題を覚えていますか?
クラシック・バレエはすでに著作権が切れている音楽を多く使用していますが、それでも普段のレッスンや発表会では、最近の音楽やディズニーの音楽など、著作権がかかりそうな曲を使用していることもあるので、決して他人事ではないですよね。
今日は、YAMAHA音楽教室とJASRACの法廷闘争からバレエ教室の音楽使用、なかでも発表会で使う音楽について考えてみたいと思います。
バレエ教室に限らず、人を集めたイベントを行う教室経営者や、これから経営に携わる方の参考になれば幸いです。
JASRACとYAMAHA音楽教室の争いについて
この争い、もともとは音楽教室で使用する音楽に対して、JASRACが著作権料の支払いを要求し、YAMAHA音楽教室が支払いを拒否したことで起きた訴訟です。
JASRACの言い分としては音楽発表会などでの演奏が、コンサートやライブなどの「公衆に対する演奏」にあたるとして、音楽著作権使用料(年間授業収入の2.5%)の支払い義務が生じるとしたものでした。
この一件を調査するため、JASRACは職員をYAMAHA音楽教室に生徒として通わせて調査を行なったため、その調査方法をめぐり音楽関係者からは強い批判を浴び、宇多田ヒカルも自身のSNSで「もし学校の授業で私の曲を使いたいっていう先生や生徒がいたら、著作権料なんか気にしないで無料で使って欲しいな」と発言し、話題になりました。
裁判は2022年に決着していた
この争いが起きた時のことはよく覚えていたのですが、僕は普段テレビをあまり見ないこともあって、じつは2022年にこの裁判が決着していたのを知りませんでした。
みなさんは、ご存じでしたか?
判決の内容は以下の通りです。
- 生徒の演奏については、教育目的での演奏であり、技能向上のための行為であると判断され、著作権料の支払い義務はないとされた。
- 教師の演奏に関しては、授業内での楽曲使用も「公衆に対する演奏」とみなされ、著作権料を支払う義務があるとされた。
非常にグレーなバレエ発表会
上記の結論を踏まえて、バレエ発表会での楽曲使用について考えると、以下のように整理できます。
- 子供の発表会でのパフォーマンスは、教育的な目的が強調されている場合、著作権料が発生しない可能性が高い。
- 先生が出演する場合は、商業的な公演として扱われる可能性があり、著作権料が必要になる。
ちょっと待って。じゃあ先生と生徒が両方出ている場合はどうなるの?
こんな時に頼りになるのが、大規模言語モデルのジピちゃんです。もちろん、彼も間違うことがありますが、アメリカの司法試験を受けて上位10%に入る性能*があるので、少なくとも僕よりはずっと法律の解釈について真実味のある答えを出してくれるはずです。
*2024年10月現在調べ。試験問題に対するタイムプレッシャーや文章の細かなニュアンスへの反応、試験の形式に対する人間的な対応能力は無視した場合
ジピちゃんに尋ねたところ、先生と生徒の両方が出演している場合に、著作権料の発生に大きく関係するのが収益性だそうです。
発表会が収益を目的とせず、出演者から参加費を集めている場合、これは教育的なイベントと見なされる可能性が高く、その場合、著作権料が発生しない可能性があります。
発表会の中にはチケットを販売している教室もあります。この場合は、商業的なパフォーマンスとみなされ、著作権料の支払いが発生する可能性があります。
収益のたしにしようとしてチケットを販売した結果、かえってJASRACから著作権料の支払いを求められる可能性が高くなるので注意が必要です。
とくにチケットを販売する発表会で、先生が主役をやって、生徒がコールドを踊るような場合は注意が必要。こういうバレエ教室、結構あるよね。
著作権の保護期間は著作者の死後70年
さんざん脅かしてしまいましたが、ご安心ください。
冒頭に書いた通り、プティパ振付・チャイコフスキー作曲の3大バレエをはじめ、「ジゼル」や「ドン・キホーテ」などの定番クラシック・バレエの演目はいずれも著作権の保護期間である70年を過ぎているので、著作権料の支払いは発生しません。
ただし、現代のオーケストラやアーティストによる録音や、編曲された音源については、別途その録音や編曲に対して著作隣接権が発生します。ですから、正式な手続きとしては発表会で使いたい音源が現代の録音である場合、JASRACなどの著作権管理団体を通じて、使用許可を取得し、著作隣接権料を支払うことが必要です。
ですが、実際のところは、何も申請せずに発表会を行い、JASRACから請求が来たら後から支払う、というケースがほとんどではないでしょうか?
ちょっと待って。著作権の保護期間ってたしか50年じゃなかったっけ?
数年前までは保護期間が50年だったため、こういった認識の方もけっこういると思います。法改正により2018年からは著作権の保護期間は70年に延長されていますので、ご注意ください。
また、バレエの場合は音楽の他に振付にも著作権が発生しますので、有名振付家のコンテンポラリーダンスを発表会で上演する際には注意が必要です。
まとめ
今日は、YAMAHA音楽教室vsJASRACの法廷闘争からバレエ教室の発表会における音楽使用について考えてみました。
幸運なことに、代表的なクラシック・バレエ作品の著作権はすでに保護期間を過ぎています。日本が、世界的に見てもたくさんの個人経営のバレエ教室が存在する理由の一つに、「著作権料の発生しないイベントを上演できる」は、けっこうあるのではないでしょうか?
一方、僕にはストリートダンス教室の先生の知り合いもいます。ストリートダンス教室の発表会では、使用する音楽がもっと最近のものであることはもちろん、先生のダンス・パフォーマンスが一種の集客装置になっていて、お気に入りの先生にダンスを教わりたいからクラスを受講する、というケースも多いです。
どんなジャンルであっても、子供たちの夢をお金で摘むことは、その産業自体の首を絞めることにつながると思うので、適切な著作権の保護は必要ですが、教育目的のイベントに関しては大目に見ていただきたいところです。
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