ノイエタンツとは、ドイツ語で「新しい舞踊」を意味する言葉です。
ノイエタンツは、モダン・ダンスやコンテンポラリーダンスの基礎になった言われていますが、今日はこのノイエタンツがどのようにして生まれたかを人物史でご紹介します。
マリー・ウィグマンについてはすでにご紹介しておりますので、今回はマリー・ウィグマンの師匠や、同輩についてご紹介します。
ダルクローズのリトミック
「リトミック」は聞いたことがある人も多いのではないでしょうか?
そう、ヤマハの音楽教室とかで幼児向け教育でやっている、アレです。
リトミックは、作曲家であり音楽学校の教授でもあったエミール・ジャック=ダルクローズによって創案されました。
ダルクローズは、音楽を聴くだけではなく、身体を使って音楽を感じることが重要だと考えました。リトミックの特徴をまとめると以下のようになります。
- 全身を使って音楽の要素(高さ・長さ・強さ・速さ)を動きで表現する
- 音楽の聴き取りや読み書きをするソルフェージュ
- 自由に音楽を作り出す即興演奏
リトミックは、とても柔軟で多面的な理論であるため、表現活動(舞踊、演劇、オペラなど)や音楽教育に留まらず、幼児教育などにも影響を及ぼしました。
リトミックはニジンスキーをはじめとするバレエ・リュスのスター達や、「スタニラフスキーシステム」と呼ばれる演技法を確立した演出家のコンスタンチン・スタニラフスキーも学び、日本では「赤とんぼ」で有名な作曲家の山田耕筰や、ドイツ留学の初期メンバー、伊藤道郎や石井漠、祖父の師匠の岩村和雄などがドイツでリトミックを学んでいます。
1911年にドイツのヘスラウという街にリトミックの学校を開設。マリー・ウィグマンは、この学校の生徒でした。
ルドルフ・フォン・ラバン
ルドルフ・フォン・ラバンは、オーストリア・ハンガリー帝国出身のダンサーで、ダンスの理論家でもありました。ラバンは踊りを身体の部位、方向、レベル、形、時間、強さなどの要素に分解して記号化する、「記譜法」という理論を構築しました。
リトミックは先に述べた通り、多方面に応用できる先鋭的な身体の訓練法ではありましたが、ダンスの表現方法ではありませんでした。
しかし、このラバンの元へ、ダルクローズ学校の教え子だったマリー・ウィグマンが行き、ダンスの動きとしてリトミックを理論体系化したことで、ドイツ表現主義舞踊と呼ばれる「ノイエタンツ」が誕生したのです。
ですから、ルドルフ・フォン・ラバンは「ノイエタンツの父」、マリー・ウィグマンは「ノイエタンツの母」と言えるかもしれません。
クルト・ヨース
クルト・ヨースはドイツのバレエダンサーで振付家です。彼もまた、ルドルフ・フォン・ラバンの元で学んだ人物です。マリー・ウィグマンより15歳下の、弟弟子といったところでしょうか。
クルト・ヨースの特徴はダンスに演劇的な要素と政治的な要素を取り入れたことです。そのスタイルは「タンツテアター」(ダンス演劇)と呼ばれています。
1932年に発表した「緑のテーブル」は第一次世界大戦後の平和会議を風刺した作品で、自国の利益しか考えない8人の外交官のテーブル上で死神が踊ります。この作品で彼は一躍有名になりますが、ナチス政権下で作品の上演を禁止され、オランダを経てイギリスへと亡命しました。その際、師であるルドルフ・フォン・ラバンも共に渡英したようです。
また、もう一つ特筆すべきことは、クルト・ヨースは今日のコンテンポラリーダンサーの最重要人物のひとりである、ピナ・バウシュの師匠であったことです。ピナ・バウシュはクルト・ヨースのダンスカンパニーに入り、ノイエタンツやタンツテアターを学びました。
「ぴな・ばうしゅ、誰?」
ご安心ください。今後、しっかりこの人についての記事は書きますので。とりあえずこの人は映画になっちゃうくらいダンスの世界では有名な人だと思っていください。
まとめ
ノイエタンツの成り立ちは理解いただけましたでしょうか?
実はクルト・ヨースの「緑のテーブル」は1987年にスターダンサーズ・バレエ団の公演で祖父も振り付けを行い、父が主役の「死」を踊っています。残念ながら生で見た記憶はありませんが、VHSで録画した映像を観ました。なにか舞台の映像というより、テレビのために撮影された映像だった気がします。
次回はノイエタンツがどのように世界に影響を与えていったのかをご紹介します!
2023年5月9日追記:父が「死」役を務めた「緑のテーブル」の振付指導を行なったのはクルト・ヨースのお孫さんであるアンナ・マカードさんによるものでした。こちらは舞台で上演されたもので、後日NHKの番組用に撮り直したものが、僕がVHSで観た映像でした。
スターダンサーズ・バレエ団での初演は1977年で、父が「死」役を務めた映像がいつのものか最終確認が取れませんでした。関係者の皆様には訂正してお詫び申し上げます。
最後までお読みいただき、有難うございます!
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