幕開けの足跡 -1973-

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お盆もあけて今日からブログも本格的に再始動です。

今回は私の母が執行家に嫁いでから毎年大切に保管してきたプログラムの中から、最古のプログラムである1973年のプログラムに焦点を当てます。母が嫁いだのが1972年で、その翌年からプログラムを保管してきたので、残念ながら1972年のプログラムは残っていません。

まずは1973年がどういう年だったのかを振り返ってみましょう。

1973年のおもな出来事

まずは1987年がどんな時代だったかを知るために、この年に起きたおもな出来事を振り返ってみます。

  • オイルショック: 第四次中東戦争を契機にアラブ諸国が石油輸出を制限し、石油価格が急騰
  • ベトナム和平協定: ベトナム戦争でアメリカ軍のベトナムからの撤退が決定
  • ウォーターゲート事件: 選挙をめぐる盗聴などの不正行為にニクソン大統領の関与が発覚
  • 世界貿易センタービルの完成: 9.11のテロ事件で倒壊する当時世界で最も高いビルが完成
  • ローハニ(イラン)首相の暗殺: アフマド・ローハニ氏がテヘランで暗殺
  • ローザンヌ国際バレエコンクールの開始

1973年はオイルショックやベトナム戦争の終結など、世界的に大きな変化のあった年。

また、この年にロイヤル・バレエ団が来日公演をして、ルドルフ・ヌレエフとマーゴ・フォンテインが「ロミオとジュリエット」で共演したという情報もあるけど、信頼に足る情報ではなかった。くわしくご存知の方がいたら、教えてください。

1973年6月23日(土)東京厚生年金会館 小ホール

それでは、1973年の発表会プログラムの挨拶文を掲載します。

「コッペリア上演にちなんで」

昨年6月の会に「くるみ割り」全幕を上演して大変好評だったので今年は「コッペリア」全幕をやる事になった。全幕物をやる事は普通の会以上に多数の舞台セット、ゲスト出演等仲々大変なことになる。
今日では知らない人が多いと思うが「コッペリア」は私が海外留学から帰って昭和9年10月上演した事がある。これはベルリン市立オペラバレエ団と同じ演出によったもので、サン・レオンによるものをラインハルトが改訂しルチー・マウドリックが振付した。筋書きも大分新しく改訂されている。其後市立オペラ外クロールオペラ、ロンドン、ミラノ等で度々上演された。これを機会に一つの思い出として書いて見た。作曲者ドリーブ*は「シルビア」でもおなじみで、チャイコフスキーに次ぐ美しい旋律の持主で殊にパ・ダクシオンで動きに合った変化のある音楽は有名である。では今日の会の成功を祈りながら今後共よろしく御指導の程を。

ー執行正俊

*レオ・ドリーブ:19世紀フランスのロマン派音楽の作曲家。「フランス・バレエ音楽の父」と呼ばれる。

この挨拶文から、1972年の発表会では《くるみ割り人形》全幕が上演され、その成功を受けて1973年は《コッペリア》全幕の上演に挑戦したことがわかります。

《コッペリア》の歴史的背景の変化

挨拶文で祖父が言及している1934年(昭和9年)の《コッペリア》上演については、過去の音声配信でも触れていますが、1934年と1973年では随分と状況が変わっています。祖父がドイツ留学から帰国したばかりの1930年代の日本では、ドイツのマリー・ウィグマン舞踊学校の同門だった江口隆哉・操子らを中心に、モダン・バレエのプチブームが起きていました

しかし、その一方で創作法も学ばず思いつきで安易に新作を発表する舞踊家も増えていました。そんな中、祖父はあえて海外の既成作品を紹介することにこだわりました。そのような背景から1934年の《コッペリア》は上演されたのです。

日本でバレエ教室が急速に増えたのは戦後1945年以降のことです。1934年の上演時には、本場仕込みのクラシックバレエを初めて目にする観客が多かったと思いますが、1973年の発表会では《コッペリア》がどんな作品かを知った上で、古典作品として楽しむ観客が多かったのではないでしょうか。

このように、約40年の間にバレエが日本社会に浸透し、観客の《コッペリア》に対する受け止め方も大きく変化したと思います。

まとめ

1973年の発表会プログラムを通じて僕が感じたのは、時代の変化です。

1934年には古典作品を上演することがその時代においては、当時の現状に対するアンチテーゼだったのに対して、1973年ではバレエの古典作品が家族が楽しめる発表会作品に変わっていきました。

同じ作品でも約40年の時間経過で受け止められ方は随分変化しています。また、ドイツで祖父が見た西欧の人が踊り、西欧の人が見る《コッペリア》と、日本人が踊り、日本人が見る《コッペリア》の間にも大きな開きがあると思います。

50年にわたる発表会プログラムの定点観測をすることで、このような時代や環境の変化を感じ取ることができるのも、このシリーズの魅力のひとつかもしれません。


(2024年8月19日追記)

じつはこのブログを作成した後、今から30年ほど前まで執行バレエスクールに在籍していたお弟子さんとお会いする機会があり、さらに古いプログラムを提供いただくことができました。詳しい経緯は明日の音声配信でお話しします。

という訳で次回の「幕開けの足跡」は今回よりも更に年代を遡り、1971年のプログラムをご紹介します!

 


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