今回はローラン・プティ、モーリス・ベジャール、ルドルフ・ヌレエフら20世紀のフランスを代表する3人の振付家と共に、彼らの世界観と美学を舞台上で表現した傑出したスターダンサーたちをご紹介します。
ジジ・ジャンメール -ジャンルを越えたエンターテイナー-
ジェンメールはフランスのバレエダンサー、歌手、俳優であり、彼女の夫はローラン・プティです。また、彼女はバレエダンサーとして国際的な名声を獲得するともに、シャンソン歌手としても活躍しました。
15歳でパリ・オペラ座に入団しますが、プティが退団した1944年にパリ・オペラ座を退団します。彼女はその後、バレエ・リュス・ド・モンテカルロやオリジナル・バレエ・リュスなどで活躍し、プティと共にバレエ・ド・パリを設立しました。
1949年ロンドンにてプティが振り付けジャンメールが主演した《カルメン》が大成功を収め、同年ニューヨークで再演された際にミュージカルに魅了され、シャンソン歌手としてブロードウェイミュージカル『ダイアモンドを噛む女』(50)に出演、1952年にはミュージカル映画『アンデルセン物語』で映画初主演を飾ります。
プティとジャンメールは途中仲違いもありましたが、1950年代は二人ともアメリカのショービジネスで活躍し、1954年に結婚します。
ローラン・プティ版《コッペリア》(75)独自の演出として、人形作り職人のコッペリウスが人形のコッペリア相手にひとりで踊るシーンがあるんだけど、これはコッペリア役だったジャンメールが体調不良に見舞われて踊れなくなってしまったため、コッペリウス役のプティが苦肉の策で生み出したシーンらしいよ。
プティが1972年から1998年まで芸術監督を務めたマルセイユ・バレエ団でも、ジャンメールはダンサーとして活躍し、1998年、プティがマルセイユ・バレエ団を辞職すると、夫婦でスイスのジュネーヴに移住し、96歳でこの世を去ります。
ジョルジュ・ドン -アルゼンチン生まれのカリスマダンサー-
ジョルジュ・ドンはアルゼンチン出身のバレエダンサーです。繊細な指先、澄みきった瞳、内面からあふれ出す表現力で知られています。ベジャールとドンは1963年にアルゼンチンのブエノスアイレスで出会い、その数ヶ月後にベルギーの稽古場にドンが訪れた時から彼の才能に惚れ込み、66年にはモーリス・ベジャール主宰の20世紀バレエ団で《ロミオとジュリエット》のロミオ役を演じ、評判を呼びます。
同性愛者であったベジャールとは公私に渡るパートナーで、《ニジンスキー・神の道化》(72)では、ニジンスキーの手記を元にディアギレフとの関係悪化により次第に狂気に陥るニジンスキーをドンが演じ、79年には男性舞踊手として初めて《ボレロ》を踊ります。そしてこのブログでも何度か紹介している映画『愛と哀しみのボレロ』ではルドルフ・ヌレエフをイメージさせるキャラクターを演じ、一躍有名になります。その後も多くのベジャール作品に出演しますが、1992年、エイズにより45歳で早逝しました。
前回のブログでも紹介したベジャールの振付作品《バレエ・フォー・ライフ》(97)はエイズで亡くなったクイーンのボーカル、フレディー・マーキュリーの楽曲に合わせて、同じくエイズで亡くなったジョルジュ・ドンを追悼する作品でもある。下の動画の1:23:14あたりから見てもらうと、ベジャールのドンに対する愛情の深さが伝わると思う。
シルヴィ・ギエム -100年に1人の逸材-
ルドルフ・ヌレエフ率いるパリ・オペラ座バレエ団には世界中から才能が集まり、次々と世界的スターを生み出しましたが、その中でもシルヴィ・ギエムは100年に1人と言われる逸材で、バレエに対する美意識を一段上へと押し上げた人物です。彼女は超絶技巧を易々と優雅に披露して、観客が女性ダンサーに求める演技も、技術も、ギエム以前と以後で変化したと言われています。
1984年初主演となる《白鳥の湖》で当時19歳のギエムを芸術監督のヌレエフは最高位のエトワールに任命します。1985年の《白鳥の湖》東京公演では、王子役をヌレエフ本人が務め、ギエムとの共演で日本はもとより、世界中で大きな話題となります。
また、クラシックはもとより、コンテンポラリー・ダンス作品にも積極的に取り組みますが、外部からのオファーを受けられない契約に不満が募り、1988年パリ・オペラ座を退団します。
89年にはイギリスのロイヤル・バレエ団に移籍するんだけど、当時のフランスのマスコミはこの移籍を「国家的損失」とまで表現したんだ。
その後もギエムは多くの有名振付家やダンスカンパニーとコラボレーションし、自身も振付作品を発表しますが、2015年の大晦日に日本で「東急ジルベスターコンサート2015-2016」に特別出演し、カウントダウンで《ボレロ》を披露して引退します。
まとめ
今日ご紹介した3人のダンサーは振付家にとって自身の世界観を表現してくれる存在であるだけではなく、存在そのものが新たなインスピレーションの源泉でもあったと思います。
このような関係性は、映画における監督と俳優、絵画における画家とモデルなど、さまざまなジャンルで見ることができます。
男女を問わず、彼ら彼女らの存在抜きには数々の名作が世に出ることがなかったと思うと、たとえ孤独の中で創作された作品であっても、あらゆる芸術は他者との関わりの中で生まれてくるのかもしれません。
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