バレエの歴史 20世紀後半 -フランス 振付家編-

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これまで、20世紀後半のロシアのバレエ、ロシアから欧米に渡ったダンサーや振付家、そしてアメリカのバレエを紹介してきましたが、今回はバレエの殿堂、フランスをご紹介します。

世界のバレエ界における中心的地位の復活

19世紀後半に凋落していたパリ・オペラ座ですが、20世紀に入ると先に紹介したセルジュ・リファールルドルフ・ヌレエフらソビエトから来た振付家たちの功績で、世界のバレエ界における中心的地位を取り戻します。

その他にもリヨン・オペラ座バレエ団(69)や、この後に紹介するローラン・プティが創設したマルセイユ・バレエ団(72)など、20世紀後半には新しいバレエ団が創設されます。

また、南フランスに接するモナコ公国ではディアギレフ亡き後、バレエ・リュスを継いだバレエ・リュス・ド・モンテカルロが活動していましたが、内紛などがあり1951年に消滅。その後、モナコにおけるダンスの伝統を継承したいというハノーファー王女殿下の願いもあり、1985年にモンテカルロ・バレエ団が誕生します。

1993年にフランスのトゥール出身の振付家ジャン=クリストフ・マイヨーが芸術監督に就任して以降、バレエ・リュス作品や古典作品に現代的なアプローチを加えた《ロミオとジュリエット》(96)に代表される独特のレパートリーでその存在感を示すようになりました。

男性ばかりのダンサーによるコミカルな演目で有名なトロカデロ・デ・モンテカルロ・バレエ団はアメリカ、ニューヨークのバレエ団なのでまったく別ものだよ。

ジャン・クリストフ・マイヨー(1960-)
Ballets de Monte-Carlo – 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=19461802による

さて、ここからは先に紹介したヌレエフに加えて20世紀のフランスを代表する二人の振付家を紹介します。

ローラン・プティ -パリのダンディズム-
ローラン・プティ(1924-2011)
Thomas Peter Schulz, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=5854137による

ローラン・プティはパリに生まれ、第2次大戦勃発後の1940年パリ・オペラ座に入団しますが、終戦を待たずに44年に退団します。

その後は若い男性が女性(実は死神)に魅入られて首を吊るというジャン・コクトーの台本による1幕もの若者と死(46)で注目を浴び、女性の官能性を大胆に描いた全幕バレエカルメン(49)の成功で世界的な名声を得ます。

50年代は黄金期のハリウッドで振付家として活躍し、フレッド・アステア主演の映画「足ながおじさん」(55)などを振り付けます。

60年代には古巣のパリ・オペラ座からの依頼でヴィクトル・ユゴー*の長編小説をバレエ化した《ノートル・ダム・ド・パリ》がプティの代表作のひとつとなります。

*フランスを代表するロマン主義の詩人、小説家。上記の他に「レ・ミゼラブル」などが代表作。

プティの振付の特徴はダンス・デコールの古典的な動きに加えて、肘を張る、肩をすくめる、お尻を突き出すなどの動作が挿入され、それらは女性ダンサーにおいてより効果的で、コケティッシュな魅力を強調する手法でした。

また、扇子、羽飾り、煙草、椅子、鏡などの小道具を効果的に使い、音楽面では古典音楽以外の音楽も積極的に採用しました。アルノルト・シェーンベルク*などの現代音楽やプログレッシヴ・ロックの《ピンク・フロイド・バレエ》(72)やビックバンド・ジャズの《デューク・エリントン・バレエ》(2001)を創作したりと、華やかで軽妙、スタイリッシュな振付を行いました。

*1オクターブ内の音を均等に使用する12音技法を開発した20世紀初頭を代表する現代音楽家。《浄められた夜》《月に憑かれたピエロ》などが代表曲

モーリス・ベジャール -哲学と政治のバレエ-

プティとは対照的に、重厚で哲学的なテーマを扱い、男性ダンサーの魅力を印象付ける作品を数多く作り出した振付家がモーリス・ベジャールです。

モーリス・ベジャール(1927-2007)
photo©ErlingMandelmann.ch, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=11439773による

ベジャールは南フランスのマルセイユに生まれ、パリ・オペラ座の芸術監督だったセルジュ・リファールの影響を受けて1941年、14歳の時にバレエを始めます。ダンサーと並行してキャリアの初期から振付作品を発表しますが、1959年ベルギーの王立モネ劇場の依頼で振り付けた《春の祭典》で一躍有名になります。

春の祭典》と言えば、ニジンスキーが作曲家ストラヴィンスキーと創作して、賛否を巡り観客同士が乱闘騒ぎになった問題作。ベジャールはこの作品を再解釈して人間の性行為を正面から描いた前衛的な作品として発表した。男女が激しく腰を合わせる振り付けでやはりこちらも一大スキャンダルに。

1960年にはベルギーの支援を得てモネ劇場に20世紀バレエ団を結成し、87年には本拠地をスイスのローザンヌへ移します。

ベジャールの代表作《ボレロ》(60)は、かつてイダ・ルビンシュテインがラベルに依頼して作曲された音楽を使った作品で、この作品が以前ご紹介したクロード・ルルーシュ監督の映画『愛と哀しみのボレロ』に収録されて世界中に知られることとなります。

また、東洋思想や日本文化に造詣のあるベジャールは日本の伝統芸能である歌舞伎をバレエに取り入れた《ザ・カブキ》(86)、昭和の文豪三島由紀夫の思想と美学を描いた『M』(93)などを振付けています。

音楽面では、曲調は違えどプティと同じく古典音楽以外にも様々なジャンルの音楽を使い、シェーンベルク、ピエール・アンリ*などの現代音楽や、ロックバンド、クィーンの音楽を用いた、エイズによる死をテーマにした《バレエ・フォー・ライフ》(97)などを創作しました。

*フランスの現代音楽の作曲家。ミュージック・コンクレートの先駆者として知られる。アルバム《現在のためのミサ》の数曲にベジャールが振付けた。

まとめ

パリ・オペラ座に限らず、20世紀後半はプティ、ベジャールらの活躍により、フランスのバレエそのものがバレエ界の中心的地位を取り戻しました。彼らのような才能溢れる振付家について語る上で、その作品の精神や美学を体現する傑出したダンサーたちの存在にも触れておかなければなりません。

次回は、ヌレエフ、プティ、ベジャールそれぞれの下で活躍した3人のスターダンサーについてご紹介します。

 


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