同い年の父が思ったこと

ライムライトの仕事部屋
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両親のバレエスクールでは、毎年発表会が開催されていて、これまで何年続いているのかわかりませんが、新型コロナウイルスの影響で2020年だけ発表会を開催することができませんでした。

その時、母が「私が嫁いできてからはじめてのこと」と言っていたので、少なくとも50年近くは続いているのだと思います。

じつは父から1986年から現在に至るまでの発表会のプログラムを渡されまして、プログラムの冒頭に書いてある挨拶文を読んでおいて欲しいと言われました。ここには、その年の祖父、祖母の踊りや教室に対する思い、その後を継いだ父や母の思いが綴られています。

今日はそのプログラムの中から、父が今の僕と同い年だった頃に書いた文が現代にも通じる、興味深い内容だったので、皆さんと共有したいと思います。

1990年。父47歳。

僕は現在47歳で、父が47歳の時は1990年。この1990年というのは両親のバレエ教室にとって、とても重要な転機です。なぜなら、前年1989年の12月に祖父の執行正俊が死去して、はじめて父の代で発表会を開催する年だからです。

ですから、1990年の発表会の挨拶文は父の決意表明文のような意味合いを持っています。そこには、1990年当時の日本のバレエに対する思いや、これから取り組みたいことなどが書かれています。

以下、挨拶文を原文ママ掲載します。

  父が亡くなって、初めて発表会を迎えるに当り、これからの日本のバレエの有り方、そしてその中に在るバレエスクールの方向について、改めて考えを巡らしました。最近日本にも世界コンクールに賞を取る様なダンサーがかなり出て来ました。欧米やソ連を目標にやって来た日本が、これで世界的レベルに達したかの様に思われがちですが、文化としてのバレエが日本にどれだけ根付いたかと云う点を考えますと、演る側ばかり多く観る側の少ないバレエ界の現状は、とても満足の行くものでもありません。その原因の一つは、今だに日本が西洋の文化の中から育った「白鳥の湖」や「眠れる森の美女」等の幻影を追い求めているからです。確かにこれらの古典の名作は、バレエを志す人にとって、かけがえのない教典でありますが、これらを踏台にして私達の感性が反映出来る作品を生み出さなければなりません。今年は、小品集、コンサートの他に「巨人の庭」「古典交響曲」「ボレロ」と創作物を並べましたが、これは、私自身と生徒達への挑戦であり、問い掛けであり、願望でもあります。いつも今の自分より新しく生まれ変わって欲しいと思っています。
執行伸宜

父がこの挨拶文を書いてから30年以上が経過した今、ダンサーとその関係者がバレエ鑑賞者の多くを占める日本において、人口減少の煽りを受けて、当時よりも更にバレエ人口は減少を続けています。

そして、文化としてのバレエが日本にどれだけ根付いたのかという父の問いかけに、いまだ明確な答えを出せないでいるように思えます。

僕は度々このブログや音声配信で「日本にとってのバレエとは何か」を問いかけて来ました。

べつに事前に父とそういった話し合いをしたわけでもなく、僕は日本のバレエを外側から見て素直にそのような疑問を持った訳ですが、1990年当時まだ舞台で踊っていて振付家としても情熱に溢れていた、僕と同い年の父が同じような問題意識を持っていたことは、なんだかとても心強い気持ちになります。

まとめ

父は振付家として、そしてバレエ教師として、現在に至るまで自身の問題意識と向き合いながら作品を作り続けて来ました。父の作品がすなわち、父の思いです。

教室を継ぐというは実務的な部分も大事ですが、「思い」を継ぐという側面も非常に大事だと思います。

物事をほぼ成就するところまでいきながら最も肝心な点が抜け落ちていることのたとえとして、「仏作って魂入れず」という言葉がありますが、さて、ダンサーでも振付家でもない僕がどうやって「魂」を入れるのか。

正確にはここは「僕(I)」ではなく「僕たち(We)」を使うべきかもしれません。

幸運にも父はまだ健在で、直接色々と話を聞くことができます。祖父母や父と長い時間を過ごした母がいます。教室では妻が父の振り付けに触れることができます。教室のことをご自身が生徒の頃から知っている先生方がいます。僕たちには形だけ引き継いで「魂」を入れるのを忘れないよう、考える時間があります。

実務面ももちろん大切ですが、「魂」の部分もしっかりと受け継ぎ、現代にアップデートしていきたいと思います。

 


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