熟達論 -型は個性を殺すのか-

ライムライトの仕事部屋
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7月25日の音声配信で、元オリンピック陸上選手の為末大さんの著作『熟達論』を紹介しました。

この音声配信では、例えばボールを的にあてるゲームをするときに、まずは何も考えずに全力でボールを投げてから正しい投げ方を学ぶ人と、逆の順番で学んだ人の違いを説明し、「型」を学ぶ前に「遊」の感覚をつかむ重要性を紹介しました。

今日は「型」の重要性について説明したいと思います。

バレエ関係者の読者が多いのこのブログで、ダンサーでもない僕が「型」の重要性を説くのは釈迦に説法なのは重々承知しております…。でも、為末さんの考える「型」を紹介することは、ダンサーはもちろん、バレエ教室に通う生徒さんや親御さんにも参考になると思うんだ。

「型」とは何か?

『熟達論』の中で、為末さんは「型」を「土台となる最も基本的なもの」と定義して、何も考えずにそれができる状態を目指すとしています。「型」は、先人が試行錯誤した結果として出来上がっているので、本来は自分で試行錯誤しながら辿り着く地点に、ワープするようなものです。

馬の走る能力や鳥の飛ぶ能力など、特定の得意領域を持つ生き物と比べて、人類はあらゆる領域にそれなりに適応できる柔らかさを持っています。そんな人類が特定領域を伸ばすためには「型」と言う制約を設ける方が上手くいきます。

「型」は創造性を壊すのではなく、実際には「型」ができるとそれを土台に表現できる範囲を増やすことができます。

「型」をどのように手に入れるのか?

自転車の漕ぎ方をどんなに目の前で見せられても、また口で説明されても、実際に自分でペダルを漕いでみないことには自転車の乗り方は分かりません。

同じように「型」も知識ではなく体験を通じて気づくものであり、これが「型」の最大の難所でもあります。「型」の重要性を本人が納得するには、意味を気にせず時間をかけて「観察」と「再現」を繰り返し、まとまりのある模倣ができるようになる必要があります。

「納得してからはじめたい」ではなく「はじめなければ納得できない」なんだね。バレエを幼少期からはじめるメリットとして、なにも考えずに模倣から入れると言うのはあるかもしれない。

「型」は個性を殺すのか?

意味もわからず、ただ模倣を繰り返すことに危うさを感じる人もいるでしょう。

人は個々人がバラバラで違う存在です。それ故「型は個性を殺す」と言う意見もあります。人によって個性があるのだから、各個人で最適なやり方があるはずだ、と。

一方でヒトは人類として骨格や筋肉のつき方などに多くの共通点を持っています。この共通点に着目すれば、「型」は最も基本的なものであるために、普遍性があり、多くの人たちに当てはまります。だから基本的に「型」は有効である、と言うのが為末さんの考え方です。

為末さんは「型」の模倣を続けることのコツについては書かれていませんが、途中で諦めてしまう人の傾向として「反応の大きさ」を挙げています。

できた時に喜び、失敗した時に悔しがるリアクションが大きい人ほど諦める傾向にあると。そしてこの反応を大きくしないためには、変化を「期待しないこと」です。

これは生徒さん本人だけではなく、親御さんにも当てはまることかもしれない。「型」の習得には時間がかかるので、1年やそこらで「変わってほしい」「うまくいって欲しい」と願うと、期待はずれになってしまうこともある。

「型」が抱えるリスク

積み木の最初の土台となる「型」を考える上で、そのリスクについてもご紹介しておきます。

覚えることよりも忘れることが難しい

先述したように、ヒトには柔軟性があり変化に適応する能力がありますが、一度身につけた「型」を忘れるには、それまで積み上げた積み木を全て解体して作り直す必要があり、覚えることよりも多くの時間がかかります。

検証がタブー視されたり、効果が過信されたりする

「型」は先人の経験則によって作られているがゆえに、常に暫定的な真実です。ところが、伝統と歴史が積み重ねられると権威が生まれ、型を検証すること自体がタブー視されたり、効果が過信されることがあります。

その「型」に意味はあるのか、その範囲に過不足はないのか。「型」の検証は教わる側ではなく、教える側の責任が大きい。

「型」の効果がいつの段階に最適なのかを考えなければならない

「型」が人類の共通点に着目している以上、身体的に障害を抱えた人などには当てはまらない場合があります。そうでなくとも、子供の頃には最適解だった「型」が大人になると阻害要因になることがあります。だからこそ先人が全ての年代を通して体験した中で、将来に渡り最も基本だと考えたものを「型」として継承していく必要があります。

まとめ

上記の内容を以下にまとめました。

  • 「型」は先人が試行錯誤して設計した特定領域の能力を伸ばす技術である
  • 「型」の習得には時間をかけて観察と再現を繰り返し、模倣することが必要である
  • 「型」は人類の共通点に着目した基本的な動きであるがゆえに、多くの人に有効である
  • 「型」は暫定的な真実であり、常に検証にさらされるべきである

「型」を学びはじめたばかりの人に、その先に行き着くであろう美しい景色を垣間見せるのも先人の役割ではないでしょうか?先人が見せてくれる世界が美しいものであれば、その世界を信じて「型」を身につけるモチベーションにつながると思います。

 


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